タイトル 声劇・朗読用台本 『星の王子さま』 後編 (前編はこちら
原作者 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
登場キャラ数 男:1 不問:4
セリフ数 202
目安時間 25分
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登場人物 性別 セリフ数 説明
王子 不問 89 遠い星からやってきた小さな男の子。可愛らしくしゃべる。
飛行士 37 飛行機の操縦士。20歳前後。
N 不問 32 ナレーション。
ヘビ 不問 12 哲学的な口調のヘビ。(4人で演じる場合、キツネも兼役)
キツネ 不問 31 無邪気だけど、どこか達観しているキツネ。
※ チェックボックスをオンにすると、セリフの左側に印がつきます。
    
N 王子が地球に降り立った場所は、砂漠だった。

そして、人っ子ひとり見当たらないことに随分びっくりしたのだそうだ。  
王子「ひょっとして、違う星に来ちゃったのかな……」
N 心配になったその時、月色をしたリングが砂の中でうごめいた。  
ヘビ「やあ、今晩は」
王子「こんばんは。ここは、何ていう星?」
ヘビ「地球だ。ここはアフリカだよ」
王子「よかった!
 ……だったら、ちきゅうには人はいないの?」
ヘビ「ここは砂漠だからな。砂漠に住む人間はいない。
 地球は大きいからね。君は、どこからきたんだね?」
王子「えっとね、ちょうどぼくたちの真上にある……あの星。でもすっごく遠いんだ」
ヘビ「ほう、美しい星だ」
王子「……ぼく、思うんだけどさ。
 お星さまがキラキラするのって、みんながじぶんの星を見つけられるようにするためじゃないのかな」
ヘビ「面白いことを言うな。
 ……ところで、君は、ここへは何をしに?」
王子「ぼくね、お花とちょっといろいろあってさ。
 自分の星を出たくなったんだ」
ヘビ「ふむ」
王子「君っておもしろいね。ゆびみたいに細くってさ……」
ヘビ「だが王の指などよりもずっと強いぞ」
王子「そんなわけないよ、足だってないじゃない……。
 旅をすることもできないね」
ヘビ「だが船を使うよりもさらに遠くへと、君を連れて行くことが出来るぞ」
N  ヘビはそう言うと、小さな王子のくるぶしに巻きついた。まるで金のブレスレットのようだった。  
ヘビ「私は触れたもの全てを、母なる大地に還すことができる。
 だが君は他の星からやって来たのだから……」
王子「……」
ヘビ「君があわれだ……。
 この冷たい星で、こんなにも小さな君が。
 もしも故郷があまりに恋しくなった時は、助けてあげられるぜ……私が」
王子「そう、覚えておくよ」
ヘビ「うむ」
王子「ねえ、どうしてそんな謎めいたことばかり言うの?」
ヘビ「謎はすべて私が解くからさ」
 
N そして王子様は、砂漠を横切り、1本の道にたどり着いた。

そこには、バラの花がたくさん咲いている庭があった。  
王子「ああ!」
N 王子様はとても悲しい気持ちになった。
彼の花は、かつて、自分はこの世にたった1本しかない花なのだ、と彼に言ったことがある。

ところがどうだろう。
ここでは5千本もあろうかというバラの花が咲き誇っている。  
王子「彼女、がっかりするだろうな……。
 もし、この庭を見たら……物凄くせきをして、決まり悪さから逃げる為に、死んだ振りだってするかもしれない。……」
王子「ぼくは世界にたった1本しかない花を持っていると信じていたのに……。
 実はどこにでも咲いている、ありふれたバラを1本持っているにすぎなかった。
 こんなぼくじゃあ、立派な王子になれないよ……」
N そして彼は、草むらにつっぷして泣いた。

その時、1匹のキツネがあらわれた。  
 
キツネ「こんにちは」
王子「……こんにちは。
 わ、君はだれ? かわいいね」
キツネ「オイラはキツネだよ」
王子「こっちにきて一緒に遊んでよ。
 ぼく、今、とっても悲しいんだ」
キツネ「うーん、君とは遊べないなあ……。
 だって、まだオイラは、君に懐いてないんだもの」
王子「あ、うん……え? 『なつく』……?」
キツネ「キミは、この辺の子じゃないね。何を探してるの?」
王子「ぼく、人間をさがしているんだ。お友達をつくりたくて」
キツネ「人間かあ。
 あいつらは銃を持ってて、狩りをするんだ。
 まったく迷惑な話だよ!
 ただあいつらは、ニワトリも飼ってる。
 あいつらの良いところはそれだけ。
 君もニワトリが欲しいのかい?」
王子「違うよ。ぼくが欲しいのは友達だよ。
 ねえ、『なつく』ってどういう意味なの?」
キツネ「うん、それはね……『絆をつくる』って事なんだ」
王子「絆をつくる?」
キツネ「うんとね。
 今の君はオイラにとって、世界中にたくさんいる少年と変わらない、ただの男の子にすぎない。
 オイラも君にとって、そこらにたくさんいるキツネと変わらない、1匹のキツネにすぎない」
王子「うん……」
キツネ「だけど、もしオイラと君が仲良しになったら、2人はお互いに必要としあうんだ。
 君は、オイラにとって世界で唯一の存在になるんだよ」
王子「そっか……。なんだか、ぼく、分かってきたよ」
キツネ「ん?」
王子「一輪の花があってね……。
 ぼくは、きっとそのお花になついていたんだ」
キツネ「あるある。この地球じゃなんだってありだからね」
王子「ううん。この地球での話じゃないよ」
キツネ「他の星での話かい?」
王子「うん」
キツネ「その星には、狩人はいるの?」
王子「いないよ」
キツネ「いいね! じゃあ、ニワトリは?」
王子「いないよ」
キツネ「おーまいごっど。上手くいかないもんだな」
王子「……?」
キツネ「オイラの今の暮らしはさ、単調そのものなんだよ。
 オイラがニワトリを追いかける。
 そして、人間がオイラを追いかける……。
 毎日ずっとその繰り返し。
 だから、ちょっと退屈してるってわけさ」
王子「……」
キツネ「でももし、オイラと君が仲良しになったら、オイラの生活はパッとお月様が当たったみたいになるだろうなあ。
 君の足音が聞こえたら、まるで音楽に誘われるように巣穴から出て行く。
 小麦が金色に実るたびに、君の金色の髪を思い出す。
 小麦畑をわたる風の音だって、きっと好きになる」
王子「……」
キツネ「ねえ。もし、君が本当に友達が欲しいのなら、オイラを懐かせてくれないか?」
王子「どうすればいいの?」
キツネ「それにはちょっと時間がかかるな。
 忍耐強くなきゃダメだね」
王子「……?」
キツネ「まず最初のうちはね、オイラと君は少し離れた場所に座るんだ。
 何も話しかけちゃだめだよ?
 言葉というものが、誤解をまねく原因なんだ。
 でもね、毎日ほんの少しずつ、近くに座れるようになる」
N そして次の日、また王子様はやって来た。

するとキツネはちょっと残念そうに苦笑した。  
キツネ「うーん、毎日同じ時間に来てくれたら、オイラはもっと嬉しいな」
王子「え?」
キツネ「例えば、午後4時に君がやって来るとすれば、オイラは3時頃にはもうワクワクしちゃうよ。
 君が来る時刻が近づけば近づくほど、嬉しくなっちゃうんだ。
 だけど、もし君が決まった時間に来なければ、心の準備ができなくなっちまう……。
 習慣づけってやつはね、結構大事なんだ」
王子「シュウカンヅケって……何?」
キツネ「習慣があるからこそ、特別な時間が生まれるんだ。
 たとえば狩人達は、木曜になると狩りを休んで踊るのさ。
 だから、木曜はすばらしい日なんだ!
 オイラも気軽に散歩できるしね。
 でももし、狩人達が日を決めずに踊れば、オイラが休める日なんてできないんだよ」
王子「そっかあ……! うん、わかったよ」
N こうして長い時間をかけて、王子様とキツネは友情という絆で結ばれたのだった。  
N そして数ヶ月が経ち……別れの時が近づいてきた。  
キツネ「……あーあ、君ともお別れかあ。
 オイラ、泣いちゃいそうだよ」
王子「それは君のせいだよ……。
 ぼく、君を悲しませるつもりなんて無かったもの。
 けど、君はぼくになついてしまった」
キツネ「そりゃそうさ!」
王子「でも、君は泣くの?」
キツネ「……そりゃそうさ」
王子「じゃあ、良いことなんてなかったじゃないか!」
キツネ「グスッ……。
あったさ。金色の、小麦畑」
王子「あ……」
キツネ「ねえ、もう一度、バラ達に会いに行ってごらんよ?
 そうすれば、君のバラが世界にたった一輪のバラだってわかるよ。
 その後でオイラにさよならを言いにまた戻っておいで。
 その時、ある秘密を教えてあげるよ」
N そうして王子様は、もう一度5千本のバラ達に会いに行った。
そのバラ達は、前とは少し違って見えた。  
王子「そっか……。
 ここにあるバラは、ぼくのバラとは全然違うんだ。
 ぼくにとっては、なんの思い入れもないバラだもの。
 お友達になる前のキツネと同じなんだ」
王子「ぼくのお花だって、通りすがりの人にとっては、きっとただのバラにしか見えないんだ……。
 それでも、ぼくにとっては大事な存在なんだ。
 だって、ぼくがお水をあげた花だもの」
N それから彼は、キツネのところへ戻った。  
王子「お別れだね……」
キツネ「お別れだ!
 さあ、これがオイラの秘密。うんと簡単な事さ。
 大事なものは心で見るんだ。
 大事なものは、目では見えない!」
王子「大事なものは目では見えない……」
キツネ「君のバラがそんなに大事になったのは、君がそのバラのために時間を使ったからだよ」
王子「……」
キツネ「絶対に忘れちゃいけないよ。
 時間をかけて仲良しになった相手に対して、君は責任を持たなきゃいけないんだ。
 君には、バラを守る責任があるんだ」
王子「ぼくは、ぼくのバラに責任がある……」
 
N そんな風に王子様の話を聞いていくうちに、いつしか8日目を迎えていた。

相変わらず飛行機の修理は終わらず、飲み水も底をついていた。  
飛行士「……ねえ。
 君の思い出話はとっても面白いけど……もうやめにしないか?
 水がもう空っぽで大変な状態なんだ。
 もうすぐ僕たち、死んじゃうかもしれない……」
王子「たとえ死にそうでも、お友だちがいるってことは良いことだよ?
 ぼく、キツネと友だちになれてすごく嬉しかったんだ」
飛行士「……っ! 
 王子様には、危険というものがわからないんだ。
 お腹がすいたこともなければ、のどが渇いたこともなかったんだろう?」
王子「ぼくだってのどがカラカラさ。
 井戸をさがしにいこうよ」
N 僕はくたびれているふりをした。
砂漠をあてもなく井戸を探しに行くなんて馬鹿げたことだと思ったからだ。

それでも僕たちは歩き出した。  
飛行士「君も、のどが渇いているのかい?」
王子「お水も心にいいのかもね……」
飛行士「……?」
王子「あのね、星が綺麗なのは、目に見えない花があるからなんだよ」
飛行士「……そうだったね」
王子「さばくもそう。とってもきれいだね」
N それは本当だと思った。

僕はいつだって砂漠が好きだった。
砂漠では何も見えず、何も聞こえないのに、何かが静かに輝いている……そんな気がする。  
王子「あのね、さばくがきれいなのはね」
飛行士「うん」
王子「どこかに井戸をかくしてるからなんだよ」
N それを聞いて、砂漠の持つ輝きの理由が分かった気がした。

ずっと昔……。
僕が子供の頃に住んでいた家には、宝物が埋まっているっていう言い伝えがあったんだ。

もちろん、誰もそれを見つけていない。
それでも、その宝物は子供の僕にとって家中を魔法でいっぱいにしていた。
家はその奥に秘密を隠していたのだから。  
 
N 歩き回ってたどり着いた井戸は、サハラ砂漠にあるものとは違っていた。

普通、砂漠の井戸は砂の中に掘られた、単なる穴でしかない。
それなのにこの井戸はというと……村にあるものみたいだった。  
飛行士「不思議だ。桶に滑車にロープ……全部揃ってる」
王子「ねえ、聞こえる? 
 僕たちが井戸を目覚めさせたから、井戸が歌っているよ」
飛行士「うん、きれいな音だ……。
 あ、僕が水をくむよ。君には重すぎるから」
N ロープを引っ張ると、滑車がカラカラと音を奏でる。

僕は、ゆっくりと、桶を井戸の淵まで持ち上げ、王子様と2人ですくって飲んだ。  
飛行士「ごくごくごく……ぶはっ。
 ……うまい……!」
N その水は、ただの飲み水とは全く違うものだった。
星空の下を歩き続け、滑車の歌を聞きながら、力仕事をして得た、水。
まるで祝宴のように甘美な一時だった。  
飛行士「こんなうまい水は……飲んだことがない」
王子「うん! 心にしみるお水だね」
飛行士「ははっ。クリスマスの贈り物みたいな水だ」
王子「あのね。
 この星の人達は、1つの庭で五千本ものバラを育ててる。
 でも、探しているものは、その気になれば1本のバラや、ほんのわずかなお水の中にあったりするんだ」
飛行士「……」
王子「大事なものは目には見えない。
 心で探さないといけないんだ」
飛行士「大事なものは目には見えない……」
N いつのまにか王子様が眠ってしまったので、僕は彼を腕に抱きかかえる。

王子様の白い額を、閉じられた瞳を、そして、風になびく髪を見つめて思った。  
飛行士「そっか……。
 こうして見ているものだって外側だけなんだね。
 何より大事なものは、目には見えないんだ」
N 王子様の言葉に心が打たれるのは、きっと王子様がひとつの花を大切に思っているから。
バラの面影こそが、この子の中でランプの炎みたいに輝いている。  
 
N 翌朝、蜂蜜色に輝く砂漠の夜明けを見ながら、僕は幸せな気持ちで満たされていた。  
王子「……ね、約束、守ってね?」
飛行士「やあ、起きたのかい。
 約束……? 何の?」
王子「ヒツジの口輪だよ。
 僕はあの花に責任があるから」
N そこで僕は、口輪の絵を描いた。
そして、絵を手渡しながら……なぜだか、胸がつまった。
飛行士「……」
王子「……あのね」
飛行士「ん?」
王子「ぼくが地球に降りてから、明日で1年なんだよ」
飛行士「へえ」
王子「ぼくは、ちょうどこのあたりに落ちてきたんだ」
飛行士「じゃあ、1週間前に、君がたった1人でここを歩いていたのは、偶然じゃないんだね。
 降りてきた場所に戻ろうとしていたんだ?」
王子「……うん」
飛行士「そっか。きっと、記念日だったからなんだね」
王子「……さあ、きみはもう、働かなくちゃいけないよ。
 飛行機の場所に戻るんだ。
 ぼくはここで、君を待っているから。
 明日の夕方にまた来てね?」
N 僕は、なぜだか不安で仕方なかった。

キツネの事を思いだしていた。
人は、仲良しになると、ちょっぴり泣きたくなってしまうのかもしれない……。  
     
N 次の日の夕方。

僕が井戸に帰ってくると、王子様が誰かと話しているのが遠くの方から見て取れた。
王子「……じゃあ、君は覚えてないの? 
 正確には、ここじゃないよ」
王子「……うん、日付は今日で合ってるよ。
 それはいいんだ。ただ、場所が違うだけ」
王子「……そうそう。
 砂に残ったぼくの足跡を見て、そこで待っててね。
 今夜そこに行くから」
N 誰と話しているんだろう……? 
王子様の他には、誰も見えないし、誰の声も聞こえない。
それなのに、彼はまた言った。  
王子「……君は、強い毒を持っているよね?
 ぼくは、そう長いこと苦しまなくてもいいんだね?」
飛行士「えっ?」
王子「……さあ、もう、あっちへ行ってよ……」
N その時、僕は、彼の足元に目をやった。
そして、飛び上がった!

そこには、王子様に向かって鎌首を持ち上げている、1匹の黄色いヘビがいた。
それは、30秒もあれば、人間をあの世に送ってくれる毒ヘビだった。  
飛行士「いったいどうしたんだ!?
 ヘビなんかと話をするなんて!」
王子「おかえりなさい。
 君の飛行機の足りなかった部品、見つかったんでしょ?
 うれしいよ。これで、おうちに帰れるね」
飛行士「どうして、その事を知ってるんだい……?
 まさに今、諦めかけていた修理がうまくいった事を、君に報告しようと思っていたところなんだよ」
王子「ぼくも、今日、おうちに帰るよ。
 君の家より、ずっと遠くて……。
 帰るのは、ずっと難しいけれど……」
飛行士「……」
王子「ぼくには、君が描いてくれた羊がいる。
 羊の為の箱もある。それに、口輪だって……」
飛行士「……」
王子「今までね、ちょっとだけ怖かったんだ……。
 でも、今夜は、もっともっと、怖いんだろうな」
N 僕は、取り返しのつかない事が起こりそうな気がして、身も凍る思いがした。

もう二度とこの笑い声を聞けなくなるなんて……考えるだけで耐えられなかった。
その笑い声は僕にとって、砂漠で見つけた泉のようなものだったから。  
王子「あのね、今夜で、ちょうど1年なんだ。
 そして、ぼくの星は今夜、去年ぼくが降りてきた場所のちょうど真上にやって来るんだよ」
飛行士「ねえ……。
 さっきのヘビとの話は、全部、悪い夢を見ているだけだよね……。
 違うかい?」
王子「……。大事なことはね、目に見えないんだ」
飛行士「……」
王子「花の場合と一緒だよ。
 もし君が、どこかの星に咲く一輪の花を好きになったら、夜空を見上げるのが、とても楽しくなる。
 だって、全ての星で、花が咲いているように思えるもの」
飛行士「……そのとおりだ」
王子「水だって同じだよ。
 君がぼくに飲ませてくれた水は、滑車やロープの歌のおかげで、まるで、音楽を聞いているみたいだった。
 覚えてる……? 
 あれはとってもおいしかった」
飛行士「……ああ、そうだった」
王子「ねえ、夜になったら、星を見上げてごらんよ。
 ぼくの星は小さすぎて、正確な場所を教えてあげられないけど……。
 でも、そのほうがいいんだ。
 君にとって、ぼくの星は全ての星のうちの1つなんだ。
 だから君は、どんな星でも見るのが楽しくなるね」
飛行士「……」
王子「ぼくは君に1つ贈り物をするね。
 君が星を見上げたら、ぼくはそのどれか一つに住んでいるから。
 そのどれか一つでぼくは笑ってるから。
 君には、星が全部笑ってることになる。
 ふふっ……君には、笑う星たちをあげるんだ!」
飛行士「……嫌だよ……そんなこと、言わないでくれ……」
王子「あのね……。
 今夜ぼくは帰っちゃうけど……見送りには、来ないでね……」
飛行士「……嫌だ。
 僕は君のそばを離れないよ」
王子「ぼくはきっと、痛がっている様に見えるだろう……。
 死んでしまった様に見えるだろう……。
 でも、仕方がないんだ……。
 だから、そんなもの見に来ないでね。
 必要ないんだから……」
飛行士「僕は君のそばを、離れない……!」
王子「ぼくが、こんな事言うのはね……ヘビのせいでもあるんだ。
 君を噛むといけないでしょ……?
 ヘビは意地悪だからね。
 ふざけて噛んでしまう事だってあるかもしれない」
飛行士「やめてくれよ、そんな事を言うのは……。
 絶対に離れないよ、僕は……」
王子「ん? そっか。
 ヘビが二度目に噛む時は、もう、毒はないんだっけ?」
飛行士「……っ!」
N そしてその夜。

僕は、彼が出て行ったことに気づかなかった。
音も立てずに、いなくなってしまっていた。

僕がようやく追いついた時、彼は、覚悟を決めたように、急ぎ足で歩いていた。  
王子「ああ! 君、来たの……」
飛行士「……っ」
王子「来ないほうが良かったのに。
 きっと、悲しい思いをすると思うよ。
 ぼくは死んでしまった様になるんだ。
 ……わかるでしょう? 
 ぼくの星は遠すぎるんだ。
 だから、ぼくはこの体を持ってはいけないんだ。
 重すぎるから……。
 でもそれは、残された、古い果物の皮のような物だよ。
 古い皮なんて、悲しくもなんともないでしょう……」
飛行士「……いやだ」
王子「ねえ、素敵な事が起きるんだよ。
 ぼくだって、星を見上げるんだ。
 全ての星には、さび付いた滑車のついてる井戸があるんだ。
 そして、全ての星が、ぼくに水を飲ませてくれるんだ……。
 楽しいだろうな!
 君は、5億の鈴を持つようになって、ぼくが、5億の泉を持てる……なん、て……。
 ……(ぐすん)」
飛行士「……」
王子「あのね……。
 ぼくの花に……ぼくは責任があるんだ。
 本当に、か弱いんだ。
 それに、とても無邪気なんだ。
 自分を守る物といったら、4つのトゲ以外何も持ってない……。
 だからね、ぼくは行かなきゃいけないんだ……」
飛行士「……」
王子「……ただ、それだけ……。
 言いたいことはもうないよ。
 ……さあ……!」
N 彼はまた少しためらって、それから、立ち上がった。
彼のくるぶしのあたりで、黄色い光がきらめいた……。
そして、ヘビが彼の手に口づけをする……。

……彼は、叫び声も上げなかった。
それから1本の木が倒れるように、彼はゆっくり倒れた。
音さえ、たてなかった。
砂の上だったから。  
N あれから6年……。

僕はこれまで、誰にもこの話をしなかった。
ただ、王子様が自分の星に帰っていったということを、僕は確信している。
なぜなら、次の日の朝、彼の体はどこにも見当たらなかったから。
 
そして僕は、夜、星達の奏でる音に耳をすますのが好きになった。
それはまるで、5億の鈴が鳴り響いているように思えたから。  
N ……でも、ちょっと気になることがある。
ヒツジの口輪に、僕は皮ひもを描き忘れてしまったのだ。
きっと彼は、ヒツジを繋ぐことは出来なかったに違いない。
だから気になるんだ。

『彼の星で、一体何が起こっただろう?
 ヒツジが花を食べてしまったかもしれない……』

するとどうだろう。
星達はみな、涙にくれるんだ。
それは、本当に不思議な事だ。  
N 空を見上げてごらん。
そして、彼の星のことを考えてみて欲しい。

そうすれば、世界が一変するのがわかるだろう。  





【台本作者コメント】

 大好きな作品なので台本化させていただきました。
 良かったらご自由に使っていただけますと幸いです。

 また、著作権が切れた作品ということなので、
 原作の絵も使わせて頂いております。

 なお、台本にするにあたって、
 以下の作品を参考にさせていただきました。
 深く感謝申し上げます。

  ・青空文庫「あのときの王子くん」
  ・BackStage

 ※2022/03/01 テキストとレイアウトを微修正しました。