タイトル 声劇・朗読用台本『星の王子さま』前編(後編はこちら
原作者 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
登場キャラ数 男:1 女:1 不問:3
セリフ数 151
目安時間 20分
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登場人物 性別 セリフ数 説明
王子 不問 66 遠い星からやってきた小さな男の子。可愛らしくしゃべる。
飛行士 28 飛行機の操縦士。20歳前後。
N 不問 25 ナレーション。(4人で演じる場合は学者も兼役)
バラ 19 うぬぼれ屋さんであまのじゃくな女性。
学者 不問 13 お年寄り。偉そうにしゃべる。
※ チェックボックスをオンにすると、セリフの左側に印がつきます。


N 僕は今までこの話を誰にもしたことがない。

それでも今回話すのは、もし彼が再び現れた時、真っ先に僕に知らせてほしいからだ。
N あれは6年前のこと……。

飛行機の操縦士だった僕は、エンジンのトラブルでサハラ砂漠に不時着する羽目になった。
その時は乗客も整備士もいなかったし、人里からは千マイルも離れていた。

飲み水は1週間分しかない。
僕は1人でエンジンを修理しなければならなかった。
N 夜になり、僕は砂の上で眠りに付いた。

大海をいかだで漂流する遭難者よりも、自分ははるかに孤独なんじゃないかと思った。
王子「ごめんください……。
 ヒツジの絵をかいて!」
飛行士「えっ?」
N 僕は、まるで雷に打たれたみたいに、びっくりして飛び起きた。

するとそこには、真剣な目で僕を見ている、まるで王子様のような姿の少年がいたんだ。
王子「ぼくにヒツジの絵をかいて……」
飛行士「え……?
 ……というか、いったい、君はここで何をしているの?」
王子「お願い! ヒツジの絵を描いて」
飛行士「僕が勉強してきたのは、地理と歴史と算数と文法だけだよ……絵は描けない」
王子「そんなの平気。ヒツジの絵を描いて」
飛行士「僕に描ける絵なんて1つしかないよ」
N 人間ってやつは、驚きすぎると素直に受け入れてしまうものらしい。
僕は言われるがままに、紙とペンを取り出して殴り書きをした。
王子「ちがうちがう!
 ヘビにのまれたゾウなんていらないよ」
飛行士「え……?」
王子「ヘビはすごく危険だし、ゾウはちょっと大きすぎる。
 ほしいのはヒツジなの。
 ヒツジの絵を描いて」
N そこで、僕は次々に描いてみせるのだが……
王子「ううん、このヒツジ、病気で弱ってる」
王子「ねえ。これは普通のヒツジじゃなくて、オスのヒツジだよ。
 ツノがあるでしょ」
王子「年取りすぎてるよ。僕、長生きするヒツジが欲しいんだ」
N 描いても描いても却下されてしまう。
こんなことよりも、早くエンジンを分解してみなくちゃならないというのに……。

いらだった僕は、四角い箱に穴の開いたものを適当に描いて、渡した。
飛行士「ほら、箱を描いてあげたよ。この中にヒツジはいる」
王子「わあ!
 そうだよ、ぼくはこういうのがほしかったんだ!」
飛行士「え、そんなのでいいの?」
王子「うん! 
 ……あ、ねえ、このヒツジ、草をいっぱい食べるかな?」
飛行士「どうして?」
王子「だって、ぼくんち、とっても小さいんだもん……」
飛行士「はは、平気だよ。
 その箱は小さいから、ヒツジもきっと小さい」
N こんな風にして僕は王子さまと知り合ったのだった。

翌日からは、飛行機の修理をしながら彼の話を聞くという奇妙な日々が始まった。
王子「ねえ、ここにある、このおきもの、なに?」
飛行士「これはおきものじゃない。
 飛ぶんだ。飛行機さ、僕の飛行機」
王子「えっ? 君、空から落ちてきたんだ!」
飛行士「……うん」
王子「ぷっ! あはは」
飛行士「……(むっ)」
王子「じゃあ、君も空から来たんだね。どの星から?」
飛行士「え?
 ……ってことは、君は……よその星から来たの?」
王子「あ、そっか。
 この飛行機だと、あんまり遠くからは来れないか……」
N それから3日が経ち、その王子様は色々なことを話してくれた。

彼が遠い星から来たこと。
その星は家1軒ほどの大きさしか無い、とても小さな小惑星だということ。
N そして5日目。

彼は、いきなりこんなことを聞いてきた。
どうやらそれは、ずっと黙って抱え込んでいた心配ごとのようだった。
王子「……ねえ、ヒツジが小さな木を食べるって、本当?」
飛行士「ん? ああ、本当だよ」
王子「木を食べるんなら……花も食べちゃうのかな?」
飛行士「ヒツジは目の前にあるものなら何だって食っちまうよ」
王子「トゲのある花でも?」
飛行士「そう、トゲのある花でも」
王子「……。それじゃ、トゲは花にとって何の役に立つの?」
N 僕はそんなことは知らなかった。
その時の僕は、エンジンの固く締まりすぎたボルトをはずそうと、そのことで頭が一杯だった。

故障がとても深刻なものに思われて心配になっていたし、 飲み水がなくなるという最悪の事態を怖れていたんだ。
王子「トゲって、花にとって何の役に立つのかな……?」
飛行士「……ああ、もう!
 トゲなんて何の役にも立たないよ。
 きっと意地悪な花にはトゲができる、それだけなんだ!」
王子「えっ!」
飛行士「……」
王子「そ、そんなの信じられないよ!
 花はね、とっても無邪気なんだ。
 でも花は弱いんだ。
 きっとトゲがあれば自分は怖そうに見えるって、そう思いたいだけなんだ……!」
飛行士「(とりあえず、ボルトをはずさないと……)」
王子「でも、君は本当にそう思ってるの?
 花のトゲが……」
飛行士「……違う。
 適当に答えたんだよ。
 悪いけど、何も考えてない。
 そんなどうでも良い事よりも僕は今、大事なことをやっている最中なんだ!」
王子「どうでも良いこと……?」
飛行士「(くそっ、なかなかはずれないな……)」
王子「それは違うよ!
 ぼくにとっては、花のトゲはすっごく大事なことなんだ!」
飛行士「……。えっ?」
王子 「何百万年も昔から、花はトゲをつける。
 何百万年も昔から、ヒツジはそれでも花を食べるんだ。
 なんの役にも立たないトゲを、どうして花が苦労してまで作るのか、それを知りたいって思うのは、大事なことじゃないっていうの?」
飛行士「……」
王子「あのね。
 ぼくの星には小さな花があって、それはぼくの星以外、どこにも咲いていないんだ……。
 でも、ある日、ヒツジが何も考えずにパクっとその花を食べてしまうかもしれない……。
 そう考えるのは大事な事じゃないの?」
飛行士「……」
王子「その花がいるから、ぼくは夜空を見るだけで幸せになれるんだよ。
 『ぼくの花がどこかで咲いている』って思いながら。
 でも、ヒツジが花を食べてしまったら、ぼくにとっては、
 全ての星が突然消えてしまうようなものなんだ。
 ……それが、大事なことじゃないっていうの!?」
N それ以上、王子様は何も言えなくなった。
そして突然大声で泣きじゃくった。

僕は道具を手放した。
なんだか、どうでもよくなった。
エンジンのことも、ボルトのことも、喉の渇きも。
死ぬことさえも。
飛行士「君が愛している花は、危ない目になんかあわないよ……。
 僕が君のヒツジに、口輪(くちわ)を描いてあげる。
 ……君の花には、身を守るものを描いてあげる……。
 それから……」
N どう言っていいのか、僕にはよくわからなかった。
自分は、なんて不器用なんだろうとおもった。
飛行士「ねえ……。
 良かったらその花のこと、聞かせてくれないか?」
N少しの沈黙の後、王子さまは、その花についてポツリポツリと語り始めてくれた。
王子「うん……。
 あのね、昔、ぼくの星にね。
 見たことのない花が芽を出したんだ」
N その花は、どこか違う星からタネの状態でやってきて、 そして咲くまでにとても時間がかかったそうだ。
おしゃれな花だったから、くしゃくしゃの姿では顔を出したくなかったんだ。
ゆっくりと時間をかけて、一枚一枚花びらを整えていった。

そしてある朝、まさに日の出とともに彼女は姿を現した。
バラ「ふわあ……。
 あら、失礼、たった今目が覚めたところなの。
 嫌だわ、まだ髪がくしゃくしゃね……」
王子「わあ……! なんて綺麗なんだ」
バラ「ふふっ。でしょう?
 私はバラの花だもの。
 それにね、お日様と一緒に生まれてきたのよ」
王子「(……。見た目は綺麗だけど、性格はそうじゃないのかな……)」
バラ「ねえ、そろそろ朝ごはんの時間じゃないかしら? 
 私にも何か用意してくださらない?」
王子「う、うん。じゃあお水をあげるよ。
 えっと、じょうろは……」
N こうして王子様は、毎日彼女のお世話をするようになった。

その1本のバラの輝きと素敵な香りは、小さな王子様の星を、とても華やかなものにしてくれたそうだ。
N しかし彼女は、少し見栄っ張りな性格だったので、
しょっちゅう気難しいことを言っては彼を困らせてしまった。
バラ「私にはトゲがあるから、ツメをたてたトラが来たって、平気なのよ」
王子「トラなんて、ぼくの星にはいないよ? 
 それにトラは草を食べないし……」
バラ「私、草じゃありません!」
王子「あ、ごめん……」
バラ「トラはちっとも怖くないけれど、風がとても怖いの。
 ついたてはないかしら?」
王子「風が怖い……?
 植物なのに風がきらいだなんて、気の毒に。
 ついたてを持ってくればいいんだね」
バラ「それとね、夜はガラスケースをかぶせてほしいの。
 あなたのおうちってとても寒いわ。
 きっと星の位置が悪いのね。私が前にいたところは……」
王子「え? 前にいたところって……ここで育ったのに……?」
バラ「……お、おほん、おほん」
N 彼女は、つい無邪気にウソを言ってしまったことに気づいて咳払いをした。
はずかしくなったけど、おほんおほんとせきをして、王子様のせいにしようとした。
バラ「ねえ、ついたては……?」
王子「とりにいこうとしたら、きみがしゃべったんじゃないか……」
バラ「さ、寒いわね……。おほん、おほん」
N 毎日こんな調子だったから、王子様は少しずつ彼女のことが信じられなくなった。
大して意味のない言葉を真剣に受け止めて、その度にとてもつらくなった。
王子「その時は、わかんなかった……。
 あの子はね、あまのじゃくなだけだったんだ。
 言葉よりも、してくれたことを見なくちゃいけなかった。
 あの子は、ぼくを良い香りで包んでくれたし、ぼくの星を明るくしてくれたんだ」
王子「でも、ぼくはあまりにも子供で、全然それが分からなかった。
 少しずつ、花と一緒にいるのがつらくなって……ぼくは自分の星を出ることに決めたんだ」
N そして王子様は、渡り鳥を使って星を出ることにしたそうだ。

出発の朝、彼は自分の星をきれいに掃除して、花に最後の水をやった。
毎日決めてやっていたことだけど、この朝にはずっとずっと愛おしく思えた。

最後にもういちどだけ、花に水をやって、ガラスケースをかぶせようとしたとき、 彼はふいに泣きたくなってきた。
王子「さよなら……」
バラ「……」
王子「……さよなら」
バラ「……けほん」
N 花は咳き込んだ。
だがそれは、風邪を引いているから、というわけではなかったようだ。
バラ「……私、バカね。 ごめんなさい。 ゆるしてね。幸せでいてちょうだい」
N 彼は驚いた。
花が非難の言葉を、何一つ口にしなかったからだ。
ガラスケースをもったまま、おろおろとその場に立ちつくした。
どうして花が穏やかで優しいのか、分からなかった。
バラ「……私ね、あなたのことが好きだったの」
王子「……」
バラ「知らなかったでしょ?
 あなたには、ちっとも伝わらなかった。私のせいね。
 ……どうでもいいか。
 お幸せにね。
 それと、そのガラスケースはほっておいて。
 もう必要ないの」
王子「でも風が……」
バラ「風はたいしたことないわ。
 ひんやりした夜風は体にいいし。
 私、花だもの」
王子「でも虫が……」
バラ「毛虫の1ぴきや2ひき、がまんしなくちゃね。
 ちょうちょとお友達になりたいもの。
 とってもきれいなんでしょう?
 ……だって他に誰が訪ねてきてくれるかしら?
 あなたは遠くに行っちゃうし……」
王子「……」
バラ「大きな獣も全然怖くない。私にはトゲがあるわ」
N 彼女の声は、静かで、穏やかだった。
王子様は、何もいえなかった。
ただ、涙だけが止められなかった。
バラ「さあ、いつまでもそこでぐずぐずしないで。
 行くと決めたんなら、もう行って!」
王子「彼女は、泣くのを見られたくなかったんだと思う。
 そういう花だったから」
N そして王子様は星を出て、6つの星を見て回った。

それらの星にいたのは……自分の体面を保つことに忙しい王様。
毎日酒を飲み、それを忘れるために酒を飲む酔っぱらい。
夜空の星の所有権を主張し、その数の勘定に日々を費やす実業家。
星が1分ごとに自転するため、1分ごとに点火や消化を行っている点灯夫。

そして。
自分の机を離れたこともないという地理学者。
N 6番目に来た星は、前の星より10倍も大きかった。
学者「これはこれは。探検家じゃな。いらっしゃい」
王子「ここで何をしているのですか?」
学者「わしは、地理学者じゃ」
王子「なあに、地理学者っていうのは?」
学者「海や川や町、それに山や砂漠がどこにあるのか、知っている学者のことじゃ」
王子「へえ、おもしろそう」
N それから王子様は、その星をぐるりと見た。
こんなにも大きな星は、見たことがなかった。
王子「とっても大きいですね、あなたの星は。海はあるんですか?」
学者「まったくもってわからん」
王子「え?じゃあ町や川や砂漠は?」
学者「それも、まったくもってわからん」
王子「でも、学者なんでしょう?」
学者「さよう。だが、探検家ではない。
 学者というのは、えらい人じゃからな、あるきまわったりはせん。
 自分の机を離れないのじゃ。
 そのかわり、探検家を迎えるのだ。
 質問をし、探検家の話を書き取る。
 ところで、君は遠くから来たんだな!
 探検家だ! さあ、わしに、君の星のことをしゃべってくれんか?」
王子「えっ?
 あ……ぼくのところは、そんなに面白いところじゃなくて。
 すべてが小さいんです」
学者「ふむ」
王子「……あ! でも、綺麗な花をひとつ持っています!」
学者「わしらは、花については書きとめん」
王子「どうしてですか? 一番綺麗なのに!」
学者「なぜなら……花は儚いんじゃ」
王子「『はかない』 ……?」
学者「地理の本はな、決して時代遅れにならない、永遠のものだけを書き記す。
 たとえば、山の位置が変わるなどということは、めったにあることではない」
王子「で、その『はかない』ってなに?」
学者「近いうちに消えるかもしれない、って意味じゃ。
 花の命は短い」
王子「ぼくのお花は、もうすぐ消えちゃうかもしれないの?」
学者「かもしれん」
王子「ぼくの花は、はかない……。
 まわりからじぶんを守るのにたった4つのトゲだけ。
 ……なのに、ぼくはたった一つ置き去りにしてきたんだ」
N 王子様は、ふいに、やめておけばよかった、と思った。
でも、気をとりなおして尋ねた。
王子「これから行くのに、おすすめの星はありませんか?」
学者「ちきゅうという星じゃ。なかなか評判が良い」
N そして王子様はそこを出発した。
花のことを考えながら。
そういうわけで、7番目に訪れた星が地球だった。